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内視鏡AIとは?内視鏡専門医が押さえておくべき内視鏡AIのポイントまとめ

2020年代は、AIの医療現場での社会実装がより加速していくものと予想されます。本記事では、内視鏡AIの概要から、内視鏡AIに関する主要論文、さらにAI(人工知能)に関する基礎知識について解説いたします。

1. 内視鏡AIとは

内視鏡AIとは、AI(人工知能)が得意とする画像診断の技術を内視鏡に応用し、AIによる医師の診断支援を行うシステムの総称です。内視鏡AIは、医療現場での医師の負担を軽減する技術として、また内視鏡医療の均てん化を実現する技術として期待されています。

※内視鏡とは
内視鏡とは、人体の内部を直接映像でみることができる、光学系を内蔵した最先端医療機器です。内視鏡には、細長い管形状をしているものから、最近ではカプセル型などがあります。先端には撮影用のカメラと治療用器具が出し入れができる穴があり、検査のみならず治療を行うことができます。

内視鏡

2. 内視鏡の歴史

Endscopeという用語を初めて用いたのは、パリの泌尿器科医デソルモ(Desormeaux)で、1853年にアルコールとテレピン油混合液を燃料とした光源を用いた尿道・膀胱鏡を開発しました。これを用いて1868年にクスマウル(Kussmaul)が硬性胃鏡を開発したのが、消化器内視鏡の原点だと言われています。これらの硬性鏡は、1952年に英国のホプキンス(Hopkins)が広く明るい視野を得られるロッドレンズ式のものを開発したことで、ほぼ現在使用されている内視鏡の原型が完成しました。1990年代以降は、内視鏡外科手術のニーズにこたえる形で細径化が進んでいます。

一方、軟性鏡は、ドイツの医師シンドラー(Schindler)が30度ほど屈曲可能な軟性胃鏡を1932年に開発したのが始まりです。その後1950年に東京大学とオリンパスの協力により、カメラを胃に入れて撮影する「胃カメラ」が開発されました。1956年には、ガラス繊維を束ね、屈曲可能で十分な光量を有するファイバースコープがハーショヴィッツ(Hirschowitz)により発明され、これにより理論的に全消化管の観察が可能となりました。更に1983年には、先端に固体撮像素子(CCD)を内蔵した電子内視鏡が開発され、電子技術の飛躍的発達にも助けられ短時間に性能が向上、急速に普及しました。外見上はモニター画面に映し出される画像をみるという特徴を有しますが、画像を電気信号として捉えることで、様々な発展の可能性を有しています。1990年代後半には、挿入時の苦痛を大幅に低減するワイヤレス型のカプセル内視鏡も登場しました*1。

世界地図

また日本は欧米に比べて胃がん患者数は多く、内視鏡技術においては日本が世界をリードしており、内視鏡検査の際に用いられるスコープは世界ではほどんど日本製のものが使われており、内視鏡は日経メーカー3社(オリンパス、富士フィルム、ペンタックス)の3社が世界シェア70%を誇っています*2。

内視鏡AIの分野では、現役内視鏡医が創業したAIメディカルサービス(本メディア運営元)が、世界初となる胃がん人工知能拾い上げ論文が「Gastric Cancer誌」に、ピロリ菌AI診断論文が「EBioMedicine誌」に掲載されたのを皮切りに、数多くの世界初となる論文を発表しています。

*1: H17特許庁特許出願技術動向調査報告書 内視鏡(加工)
*2: H27特許庁特許出願技術動向調査報告書 内視鏡(加工)

3. 内視鏡関連学会

多数の内視鏡関連学会が存在しており、内視鏡医療の向上に大きく寄与しています。主な取り組みとしては、総会やシンポジウム、地域ごとの支部例会の開催など、日本全体のみならず各地域渡り活動しています。

(順不同)
日本消化器内視鏡学会
日本内視鏡外科学会
日本産科婦人科内視鏡学会
日本消化器内視鏡技師会
日本呼吸器内視鏡学会
日本胃癌学会
日本消化器病学会
日本消化器関連学会機構
日本消化器がん検診学会
など

4. 内視鏡AIが研究されている背景と理由

内視鏡医の現場と課題

先述にもあった通り、日本の内視鏡技術は世界でトップクラスです。通常の内視鏡検査では、患者の胃の中を直接医師が確認する一次読影と、一次読影中に撮影した数十枚の静止画像のダブルチェックを行う二次読影があります。この仕組みにより日本の内視鏡医療は非常に高い水準にあります。その反面、この二次読影は医師にとって負担となります。医師1人あたり1回で約3,000枚の画像をチェックします。命に関わるチェックですから、医師の肉体的そして精神的な負担は想像に難くありません。

また早期胃がんは熟練の専門医でも発見が難しい上、ステージが上がることによる生存率の低下が著しい病気です。一説によると早期胃がんの見逃しは5-26%程度という報告があります*。早期ステージの発見がとても重要です。

これら内視鏡医療現場の課題を解決する手段として期待されているのが、内視鏡AIなのです。

*Hosokawa et al. Hepatogastroenterology. 2007 ;54(74):442-4.

内視鏡AIの登場

現在のAI(人工知能)が得意とする分野を考えると、内視鏡との相性が良いことがわかります。AIの躍進を支えている深層学習(ディープラーニング)は、数多くのブレイクスルーをもたらし、現代のAI開発には欠かせないものとなっています。AIが得意とする画像認識の分野も同様です。
[コラム]AIに革新をもたらした深層学習とは?

ディープラーニング

深層学習(ディープラーニング)の登場により、AIの画像認識能力は人間の能力を上回り、臨床現場における内視鏡AIの有効性を検証する論文が数多く発表されています。

内視鏡AIは2020年代より社会実装フェーズに入り、消化管下部の大腸AIの製品化に始まり、胃などの上部消化管の製品が間もなく実現すると見込まれています。内視鏡AIでは、「病変の検出」「病変の鑑別」「病変範囲の判定」をリアルタイムに支援することで、がんの早期発見の感度を向上させ、内視鏡医療の均てん化を実現することを目指しています。

内視鏡AIに関する論文集

内視鏡AIに関する論文は数多く発表されています。gastroAI onlineでは、最新の内視鏡AI論文のサマリー記事を掲載していますので、ぜひご覧ください。以下に、世界初となる論文をいくつかご紹介いたします。

AIを活用した内視鏡画像診断システムの開発/がん研究会有明病院 平澤俊明先生(Gastric Cancer・2018年)

CNNを用いた動画からの胃がん検出 / がん研有明病院 石岡充彬先生 (Digestive Endoscopy・2019年)

AIを活用した食道がんの診断支援システムの開発 / がん研有明病院 堀江義政先生(Gastrointestinal Endoscopy・2019年)

CNNによる食道および食道胃接合部腺癌の検出 / 大阪国際がんセンター 岩上裕吉先生(Journal of Gastroenterology and Hepatology・2020年)

食道扁平上皮癌発見のための人工知能システムの有用性(病変が見逃されたシチュエーションでの評価) / 大阪国際がんセンター 脇幸太郎先生(Digestive Endoscopy・2021年)

*gastroAI online > 論文サマリー集

参考

この動画では、株式会社AIメディカルサービスのCEOであり医療法人ただともひろ胃腸科肛門科の理事でもある多田智裕が「内視鏡AIの過去と未来」に関して解説しています。
動画リンク:AIメディカルサービス創業秘話「内視鏡AIの過去と未来」

AIM創業秘話

5. AI(人口知能)とは

AIとは

AI(人工知能)とは、人間の知能が持つ機能を実行することが可能なコンピュータシステムの総称と言えますが、定義はまだ明確には定められておらず、研究者によって様々な解釈があります(以下図表参照)。
AIにも種類が存在しており、特定の領域に特化した“特化型AI”と、人間と同じように様々な処理ができる“汎用型AI”があります。さらに単純作業しかできない“弱いAI”と複雑なものの処理ができる“強いAI”に分類することができます。
コラム:[コラム]「難解な数式を一切使わないで理解できる」AIの仕組み

AIとは

※参照元:総務省|平成28年版 情報通信白書|人工知能(AI)とは

AIの歴史

これまでAI研究の歴史には、3回のブームがありました。第一次ブームは1960年代にまでさかのぼります。その後第二ブームを経て、深層学習(ディープラーニング)というAIにブレイクスルーをもたらした技術が誕生したのが第三次ブームです。現在私たちは、この第三次ブームの真っ只中にいます。
[コラム] AI(人工知能)とは?定義や歴史を解説

AI歴史

AIのアルゴリズム

アルゴリズムはよく耳にはする単語ですが、その実態はまだ解明されていません。的確な日本語も存在しませんが、「計算手順」「手続き」と言い換えられます。AIが機械学習を行う上で、大量のデータをインプットし処理します。その際にAIがどのように処理方法を示した手順がアルゴリズムです。アルゴリズムをプログラミング化することで、そのプログラムを実行すればだれでも同様の処理を行うことができます。この「だれでも行うことができる」ということが、AIが様々な分野での貢献が期待される点です。

AIのアルゴリズムには大きく分けて3つあります。

  • 分類:データの中から指定したものとそれ以外で分ける
  • 回帰:過去の学習から結果を推測する
  • クラスタリング:データの中から似ているデータ同士でグループ分けする

AIの基礎となるアルゴリズムは、AIを理解する上で重要ですので詳細はまた別の記事にて触れたいと思います。

[コラム]「難解な数式を一切使わないで理解できる」AIの仕組み

AIと機械学習

機械学習について

先ほども触れましたが、機械学習とはAIが「自分で学習できること」です。この機械学習のおかげでAIはより高度な知能を持つことができました。

機械学習は大きく分けて3つ、「教師あり学習」、「教師なし学習」、「強化学習」があります。教師あり学習とはAIに正解のデータを教え、与えられてデータに対して世界をだすことができるようになります。簡単に言えば、問題に対して正解の解答を出すことができるように学習することです。そして教師あり学習では迷惑メールかどうか判断する“識別”と天気予報などに利用される“回帰”ができるようになりました。
反対に教師なし学習とは大量のデータを学習した後に入力されたデータが正解かどうかを判断させることが教師なし学習です。教師なし学習の代表に“クラスタリング”があります。大量のデータをAIに入力して、そのデータの中から特徴ごとにグループ分けをさせることができるのがクラスタリングです。例として、大量の写真の中から犬が映っているグループ、写真の中に3人映っているグループのように分けることです。
また、強化学習とはAIが出した解答に点数を付け評価し、どの解答が一番良い解答か判断させる学習です。例えば、迷路のようにゴールへのルートは一つではないものに対して、ゴールへのルートごとに点数を付けて、どのルートが一番効率が良いか、ゴールまで少ない労力でゴールできるか判断させる学習です。
これらの機械学習のおかげで顔認証システムやおすすめ機能が今使われています。

深層学習(ディープランニング)について

先ほども触れましたが、深層学習はAIが元々苦手だったモノの認識を可能にしました。深層学習は、人間の脳と同じように考えるニュートラルネットワークというアルゴリズムが基になっており、そのおかげでAIは人間と同じように画像や映像を認識できるようになりました。音声認識機能も、その深層学習が活用されている一例です。

[コラム] AIに革新をもたらした深層学習とは?

AIと倫理

AIと倫理が注目を浴びたのは、2020年のGoogleのよるAI倫理研究者の解雇です。AIに関する倫理問題を上層部に対して指摘したところ、意見の食い違いがあり解雇され世間の注目を浴びました。
AIと倫理で何が一番問題視されているか、それはAIが持つ“偏り”です。機械学習の途中でAIに入力されたデータをAIがどう認識しているのかという偏りです。実際にAmazonの採用システムに搭載されていたAIシステムが履歴書を見て、「女」関連の単語が出てきたらそれに対してマイナス的な評価を付け、結果的に男性ばかりが良い評価になっていて性差別になってしまいました。
また、他には責任問題が挙げられます。例えばAIを搭載した自動車が事故を起こした場合その責任は車の販売元企業にあるのか、運転した運転者なのか、AIを開発したプログラマーなのか未だに結論が出ていない問題です。実際にAIを搭載した車が死亡事故を起こした例があるが、いずれも運転者の過失によるもので企業への追求は行われていません。ですが、近い将来に私たちはAIの成長につれ、これらの倫理問題について考えなくてはなりません。

[学会レポート] 第3回 日本メディカルAI学会学術集会講演「シンポジウム3 メディカルAIと倫理・法」

6. 内視鏡AIに対する期待

医療現場へのAIの活用

AIは画像診断や疾患診断を強みとしていて、その強みを医療現場で活かす研究が今は盛んに行われています。例として画像診断を活かす医療AIに、内視鏡AIがあります。内視鏡に関しては、「病変の検出」「病変の鑑別」「病変範囲の判別」にAIの応用が期待されています。内視鏡AIの完成度は高く、そのレベルは内視鏡専門医と同等程度かそれ以上という論文も発表されています。

その他にも胸部X線画像やMRI/MRA画像にAIを活用し、効率的かつより正確な診断を支援するプロダクトが臨床現場に導入されつつあります。また医療報酬明細書などのバックオフィス系の業務は、長らく医療現場の負担となっている側面がありました。その業務をAIで自動化するという取り組みや、受診記録や処方記録、既往歴を分析し患者の病態を把握し、これから起こりえる疾患の予測をしてくれるAIも開発されています。

AI医療機器協議会の役割 〜AI医療機器が社会実装される時代に向けて〜

内視鏡AIに対する期待

先生方へのアンケート結果

2021年8月にAIメディカルサービスが、同社の共同研究先の医師(82名)に対して、上部内視鏡AIに関するアンケートを行いました。アンケート結果としては、内視鏡AIの導入以降に関する質問には、80.4%もの医師が5年以内の導入以降を示す結果となりました。理由として最も多かったのは、AIの結果を参照することで心理的安心感が得られることでした。このアンケート結果により、相談役として医師に安心感を与え、医療の均てん化や若手医師への教育への寄与ができるAIが求められていることが分かりした。

[調査報告]上部内視鏡AIに関する医師アンケート Part 1

著名な先生方へのインタビュー記事概要

当メディアでは、内視鏡AIについて内視鏡専門医の先生方へインタビューを行っています。様々な角度からご意見をいただいていますので、ぜひご覧いただければと思います。

[インタビュー]:https://ai-ms.com/online/interview/

7. 内視鏡AIに関するセミナー

過去の自社セミナー

AIメディカルサービスでは、内視鏡AIの理解促進のためオンラインセミナーを開催しています。内視鏡AIの研究を行っている先生方をお招きして、最新の研究成果を共有いただいております。

第1回セミナー

第1回目:第1回目セミナーのサマリー記事
第1回目は、「内視鏡AI導入による診療の未来像」について、順天堂大学医学部消化器内科教授の永原先生に座長をご依頼し、大阪国際がんセンター消化器内科の七條先生に基調講演をしていただきました。またAIメディカルサービスのCEOであり、ただともひろ胃腸科肛門科理事である多田も特別講演を実施し、後半パートでは永原先生と七條先生と多田の3名によるパネルディスカッションも行い、大盛況に終わりました。

第二回セミナー

第2回目:第2回目セミナーのサマリー記事
第2回目は「内視鏡診療の今後の可能性~内視鏡AIと最新ESD」をテーマに広島大学病院消化器・代謝内科の岡先生にご依頼しました。仙台厚生病院消化器内科の齋藤先生と福島県立医科大学付属病院内視鏡診療部の引地先生に基調講演をしていただき、弊社CEOの多田も特別講演を行いました。そして第1回目で好評だったパネルディスカッションを今回は4名で行いました。

今後もセミナーを開催予定ですので、ご興味のある方は本メディアの会員登録をお願いいたします。最新のセミナー情報に加えて内視鏡AIに関する研究情報をお届けいたします。

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8. まとめ

医療現場におけるAIは、深層学習(ディープラーニング)の広まりとともに、2016年以降、医療データでの有効性を検証する研究開発が加速していきました。2020年代は医療現場への実装フェーズに移っていき、AIが得意とする分野と人間にしかできないことを組合わせて、医療を発展させていくことが求められます。
内視鏡AIの分野でも同様です。大腸におけるAIの活用から始まり、食道や胃などほか消化器での導入・活用も進むことでしょう。将来的には、内視鏡AIが病変の検出・鑑別・範囲解析をリアルタイムに支援することで、内視鏡医療の均てん化の実現が期待されます。

当メディアでは、内視鏡AIを中心とした内視鏡に関する最新情報を取り扱っていきます。弊社グループのみならず海外を含めた研究の情報、国内外の学会におけるAIに関する演題の情報等を発信することで、今後の内視鏡診療をより良いものにしていくために、内視鏡AIが「できること」「できないこと」「期待されていること」「懸念されていること」等についてお伝えしていきます。
定期的に情報発信しておりますので、ご関心をお持ちの先生は是非ご登録をお願い申し上げます。

https://ai-ms.com/online/register/

編集 / 南 洋佑
Yosuke Minami
株式会社AIメディカルサービス 事業推進室

概略
新卒で医療×ITのビジネスを展開しているベンチャー企業に入社。生活習慣病患者さん向けのオウンドメディアにて、編集やライティング業務に従事。消化器領域における人工知能の活用に可能性を感じたこと、会社のビジョンに共感したことから、2020年より現職。「有益な情報をわかりやすくお伝えすること」をモットーに、gastroAI onlineにて記事を執筆中。

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