
【動画あり】「色調コントラストの重要性とLCIの特徴」特別講演:新たなステージに向かう内視鏡スクリーニング Part 2(自治医科大学・大澤博之先生)
株式会社AIメディカルサービスでは、大澤博之先生(自治医科大学 内科学講座消化器内科学部門 教授)に、内視鏡検査におけるがんの見落としとそれを防ぐための色調を考慮した診断法について「新たなステージに向かう内視鏡スクリーニング~LCIの基礎から応用まで~」という題目にて、講演会を開催していただきました。本稿では講演会の内容を5パートに分けてご紹介いたします。
本記事では、Part2として色調コントラスト及びLCIの有用性について、自治医科大学で行ったstudyや内視鏡検査の症例をベースに解説していただきました。なお、講演内容については、本投稿下部によりYoutubeにアクセスし、動画でご覧いただくことが可能です。
Part1:胃がんと内視鏡診断の基礎知識
Part2:色調コントラストの重要性とLCIの特徴
Part3:LCIの仕組みと観察における留意点
Part4:スクリーニングでは瞬時の判断が求められる
Part5:見えないがんを見えるがんに変えて、胃がんの見逃しを防ぐ
胃がんの拾い上げ診断においては解像度よりも色調コントラストの方が有用性が高い
胃がんの内視鏡検査では解像度よりも色調コントラストの方が大きな役割を果たします。白色光画像(WLI)診断とLCI画像診断、さらに標準径経口内視鏡と極細径内視鏡(経鼻用)を比較した胃癌診断の感度は、
経口LCI>経鼻LCI>経口白色光>経鼻白色光
の順となっています。LCIが早期胃がん発見に与える影響を明らかにするために、自治医科大学では早期胃がん症例と萎縮性胃炎症例を用いて検証実験を行いました。1つの症例(動画撮影)に対して、経鼻内視鏡(WLI、LCI)と経口(WLI、LCI)の計4パターンのスクリーニング用の動画を撮影し、内視鏡専門医で読影しました。結果として、WLIは経鼻LCIと経口LCIの両方よりも感度が劣ることが分かりました。また、同じ症例で比較していることから、解像度が低い経鼻内視鏡のLCIが、解像度が高い経口内視鏡のWLIよりも感度において優れていることがわかります。このことから、胃がんの拾い上げ診断においては解像度よりも色調コントラストの方が有用であることが示唆されました。
また、上記の2018年に発表した論文では早期胃がんの色差(がんと周囲粘膜の色の差を数値化)を比較しました。隆起型・平坦型・陥凹型いずれにおいても白色光に比べてLCIの方が色調のコントラストが高く、視認しやすいことが示されています。
LCIは胃がんの視認性に最も影響を与える重要な因子
LCI>隆起型
胃がんの視認性に与える因子を考えた場合、まず隆起型であれば誰でもがんを確認できるだろうと考えます。しかし、隆起型は、がんというよりも病変としての視認性です。自治医科大学で集めた早期胃がんの視認性の解析ではLCIが胃がんの視認性の最も高い因子であることが分かりました。その他の要因として「隆起型」「粘膜下浸潤がん」といった因子も視認性に影響を及ぼします。すなわち、胃がんの拾い上げ診断においては形態異常を捉えることよりも、LCIを用いて病変およびその周囲の色調を強調して鑑別を行うことの方が、有効性が高いと言えます。
また、こちらの研究は、上部消化管内視鏡スクリーニングにおけるLCIの有用性を検証するための、消化管がん既往患者を対象とした前向きの検討です。白色光では752例中37例の上部消化管がんが新たに発見されていますが、LCIを用いることで更に26例、全体の41%にあたるがんを発見できたと報告されています1)。白色光による診断の難しさを示している典型的なデータと考えます。
1) Linked Color Imaging Focused on Neoplasm Detection in the Upper Gastrointestinal Tract : A Randomized Trial/Shoko Ono/Annals of Internal Medicine/M19-2561. Epub 2020 Oct 20.
LCIが見えない胃がんを可視化する
こちらの画像は白色光で撮影したものになります。この画像から得られる視覚情報だけで胃がん診断をすることは、非常に難しいと思われます。
一方で、こちらは同じ症例でLCIを用いて撮影した画像になります。色調の変化により、がんの領域がオレンジレッドとして明瞭に視認できるようになっています。なお、白く見えている部分はキサントーマ(胃黄色腫)であり、がんではありません。
病理組織の違いをLCIでは色調の違いとして描出することができます。紫色の部位は典型的な腸上皮化生です。オレンジレッドの部位は高分化型腺がんです。両者のどこに違いがあるかと言えば、がんでは粘膜浅層での腺管が密で表面まで伸びていますが、腸上皮化生では腺管は疎に分布しています。このような組織の違いが色の違いとして表されている可能性があります。
一方、以下の症例(0-Ⅱb型)のように、病変が100%紫色に明瞭に囲まれるとは限りませんので、ご注意下さい。
背景の腸上皮化生の診断能ががんの診断に大きく影響
胃の前庭部では粘膜のほとんどが腸上皮化生に置換されてしまっている症例があります。胃体部でも腸上皮化生が広がっている症例があります。白色光像では腫瘍と腸上皮化生の色調が類似しており、その中から腫瘍を拾い上げることが難しくなります。逆に腸上皮化生を正確に診断する、その診断能ががんの診断に大きく影響してきます。
下記の症例では、LCIではがんの口側がほとんど紫一色になっています。これは平板状に腸上皮化生が広がっていると考えられます。白色光ではそれを視認することが難しいことがわかります。腸上皮化生の視認性は、がんの局在診断、色調診断および範囲診断に大きく影響しています。
別の症例で見てみましょう。白く囲まれた箇所が少し隆起し中心部は陥凹しており、がんを疑うかもしれません。
しかし、LCIで観察すると、先ほど白線で囲まれていた陥凹は、周囲に斑状に散在している紫色と同じであり、腸上皮化生だと判断することができます。このように形態よりも色調によって正確に診断できることがわかります。
また、BLIではLCIで紫色になっていた腸上皮化生を緑色で視認することができます。