インタビュー INTERVIEW

[インタビュー]「内視鏡経験の少ない医師をAIでフォローしたい」 柴田淳一先生(医療法人ただともひろ胃腸科肛門科 院長、gastroAI online監修医)

「AIメディカルサービス」CEOが代表理事を務めるただともひろ胃腸科肛門科。全国でもトップクラスの内視鏡検査数を誇るこのクリニックにて、2019年に院長に就任したのが柴田淳一先生です。医療業務を行うかたわら、内視鏡AIの研究開発サポートを続けてきたなかで見えてきた、内視鏡AIの可能性や今後の課題について伺いました。

最初は無謀だと思ったチャレンジ。可能性を感じたからこそサポートを続けてきた。

先生が内視鏡AI開発に携わることになった経緯を教えてください。

内視鏡AI研究の代表である多田智裕先生と出会ったのは、私が大学院生の頃です。ただともひろ胃腸科肛門科で週1~2回ほど検査の手伝いをすることになりまして、卒業後はクリニックで働きました。
驚いたのは、多田先生が医療業務をこなしながら、いろんな挑戦をしていたこと。肛門科の診療アプリを作ったり、内視鏡挿入の本を出版したり。なかでも大きなチャレンジが「内視鏡検査をAIで行う」という前代未聞の試みでした。
内視鏡AI開発の話を初めて聞いた時、正直「なんて無謀な!」と思いましたね。大手がシェアをもっているのだから一診療医が挑むのは難しいと思い込んでいました。ですが、よく市場を見るとそうでもなくて、当時この分野は発展途上で十分チャンスがあり、多田先生はいち早く関係施設と協力関係を結び、スピード感をもって事業を進めていました。
開発の初期は、多田先生やエンジニアなど少数精鋭メンバーで研究を行っていましたが、次第に規模が大きくなっていったことから、私も医学的な監修のサポートをするようになりました。

具体的には、どのようなサポートをしたのですか。

私が担当したのは、医学的なアセスメントや精度管理です。内視鏡AIをつくるには「アノテーション」という画像のタグ付け作業をして、AIに正解を認識させる必要があります。病変はぱっと見では素人には分かりづらく、専門医療の知識や経験がないと判断が難しいです。病変のマーキングは重要で、ここを間違ってしまうと結果的にAIのクオリティが下がる。そのため、経験のある医師の監修は必須です。

柴田先生から見てクリニック理事長兼CEO“多田智裕”はどんな人物ですか?

常にひとつのところにとどまらない方ですね。一般的にクリニックを開業すると、院長として続けていくこと、経営をまわしていくことに注力するものですが、多田先生の場合は次々に課題を見つけて精力的に取り組んでいます。そんな前向きな姿勢を間近で見て、私もサポートしていきたいと思ったのです。

パイオニア故の試練。前例のない挑戦に立ちはだかる壁とは。

現在、研究開発はひと段落したとのこと。製品リリースに向けて、どのような活動をしていますか。

約2年前からPMDA(医薬品医療機器総合機構)に医療機器として認可をもらえるように、話し合いを重ねています。AI医療機器はあまり世に出ていないので、承認申請においてはPMDAも医療機器メーカーもお互いが手探り状態です。前例がないために認知のズレがあり、話し合いがスムーズにいきませんでした。

内視鏡AIにおける認知のズレは、どのような点にあったのでしょうか。

いくつかありますが、「AIは万能で、何でも解決してくれる」と認識されていることを改めてもらうのは時間がかかりましたね。実際のところ、AIは過去の病変画像を学習させるので、専門医以上のことはできません。ところが、知識がないと、「AIは専門医が成しえなかった課題を魔法のように解決する」と誤解してしまう場合があります。長い期間PMDAと意見のすり合わせを行い続け、最近はようやくお互いのAIに関する認識を一致させられるようになってきました。

内視鏡検査が抱える課題。「検査がトラウマ」は本末転倒。

現在の内視鏡検査が抱える課題について、どのように考えていますか。

多くの方は胃がん検査を一度はするものの、内視鏡をグリグリ鼻や口から押し込まれる辛い経験をしたことで「もう検査はこりごり」と消極的になってしまうケースが多いことは問題です。今でこそ、ひと昔前に比べて医療水準が上がったため、“辛くない内視鏡検査”ができるクリニックも増えつつありますが、まだその数は十分でないのかもしれません。
私が院長を務めるただともひろ胃腸科肛門科は、専門性を活かした内視鏡検査、肛門の診療ができるクリニックとして、大学病院に負けないレベルの医療を提供できることが特徴です。質の高い検査が受けられると噂が広まったことから、埼玉県にある当クリニックに、都内や北関東県から泊りがけでくる患者さんもいらっしゃいます。
内視鏡検査は早期がん発見のために大切ですが、トラウマになったり、体調を崩したりしては本末転倒です。いかに患者さんにとって負担の少ない検査ができるかが大事になってくると考えています。

内視鏡AIが病変見逃しをサポート。非専門医の検査レベル底上げを期待。

内視鏡医がスキルアップしていくために必要なことはなんでしょうか。

一番良い方法は、内視鏡画像を数多く見ることです。スキルアップのためには経験を積み、判断する力を養うことが必要だと思います。ですが、ここで問題になってくるのが、内視鏡検査の実施数は病院やクリニックによってピンキリということです。専門クリニックでも数千件の検査で胃がん病変が見つかるのは1人か2人程度。専門外のクリニックであれば、早期胃がんの症例に出会う機会はほぼないと言えます。

非専門医の経験が不足する中、内視鏡AIはどう役立つのでしょうか。

内視鏡AIは精度が向上すれば、将来専門医と同レベルの精度で病変を発見できると期待しています。通常、患者さんたちは不調を感じたらまずはかかりつけ医で診てもらい、問題があれば専門医に紹介してもらうというケースが大半です。胃がんの早期発見のためには、専門外の医師による内視鏡検査の質を上げることがカギになります。
ですが、実際は内視鏡の非専門医は経験が少ないゆえに、どうしても病変を見逃してしまうケースはあります。判断が難しいため、病変に気付けないのです。そんな現状を改善するため、内視鏡AIは、見逃してはならない病変を発見するための必須ツールになりえると考えています。

「AIは万能」ではない。検査の質を上げるため、正しい活用方法を広めることが重要。

今後、医師が内視鏡AIを活用するにあたって、注意すべきことはありますか。

内視鏡AIを100%信じるのではなく、補助ツールとして使用すべきだと考えています。最終的には医師の判断が必要になります。
内視鏡AIには多くの症例を学習させているので、わかりやすい症例だけでなく、一見がんとは気づきづらい病変も検出します。もちろん、AIががんではない病変をがんと判断するケースもあるとは思いますが、膨大な量の胃がんデータを見てきたAIが学習したデータと取らし合わせてその可能性を提示したわけですから、医師がその意見に耳を傾けてきっちり評価していく姿勢をとることが大事だと考えています。

最後に、内視鏡を扱うクリニックの理想的な姿についての考えを教えてください。

患者さんが安心して検査を受けられるクリニックであることが、何よりも大切だと考えています。ぜひ胃がん検査は定期的に受けてほしいですし、検査を受けることで「病気がなくて良かった」「早期にがんを発見できて良かった」と感じてもらいたいです。
患者さんの安心のために、内視鏡専門のスペシャリストがいないクリニックでも、質を担保することは重要です。前述した通り、症例を多く診ていないと精度管理は難しく、病変の見逃しもありえるでしょう。それを回避し、経験の少ないドクターをフォローするために内視鏡AIを上手く活用してもらえたらと願っています。

編集 / 南 洋佑
Yosuke Minami
株式会社AIメディカルサービス 事業推進室

概略
新卒で医療×ITのビジネスを展開しているベンチャー企業に入社。生活習慣病患者さん向けのオウンドメディアにて、編集やライティング業務に従事。消化器領域における人工知能の活用に可能性を感じたこと、会社のビジョンに共感したことから、2020年より現職。「有益な情報をわかりやすくお伝えすること」をモットーに、gastroAI onlineにて記事を執筆中。

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